2019年北海道車椅子ドライブ旅行の2つの贈り物
出発一週間前に、自転車に乗っていてバイクに追突され、追突した相手に「おばあちゃん大丈夫?」と声をかけられ、いつまでも若いつもりの私はムッとしましたが、今回は、腕脚の強打で歩行困難により、2つの贈り物を貰いました。
根が信ちゃん(夫です)も私もプラス思考。私の怪我を心配してくれる優しい多くの友人に見送られ、北海道旅行を敢行した結果です。一瞬、中止を考えもしたのですが。
最大の心配は、車の後ろに私一人で電動車椅子や自走式折りたたみ車椅子を2台積み込めるかどうかでした。困ったら、周りの人にお願いしようと適当な事を考えていました。ニュージーランドでは怪我はしていないが老齢な私を見かけるとどこでも、みなさん大変協力的で・・・。
今回、日本人の多くが「見ないふり」がお上手だと、あらためて思い知らされました。もちろん、優しく声をかけて下さる方も多かったのですが、北海道では特に、しょっちゅう「シ・カ・ト(古い表現なので、知らない方も居たりして:花札の十月の絵柄「鹿の十(しかのとお)」が略された語。 十月の札は、鹿が横を向いた絵柄であるため、そっぽを向くことや無視すること)」されました。
どなたかに、北海道の人は都会人よりも気軽に手伝う行為に慣れていないからではないかと言われました。そうかも知れませんね。最初のうちは声をかけて協力を仰ぎましたが、途中で止めました。
一人でなんとか車椅子を下ろしたり乗せたり、スムーズに出来るテコの力を応用した業を会得したので。
さてさて、2つの贈り物のまず一つ目。
信ちゃんは甘えん坊です。車椅子トイレが狭いとうまく一人でドアを閉められません。そこで、高速道路のサービスエリアなどの大き目のトイレでも必ず、私が同行するのが当然の習慣になっていました。
ところが今回私は、北海道に出発する頃には横ばいの蟹歩きなら多少は出来るようになったのですが、同じ場所に立っていられない。立っている時は打撲した右足を必ず高い位置に置かないと痛い。そこで、じっと立って信ちゃんが用を足すのを待つトイレに、一緒には入っていられません。
最初の2,3回はそれでも信ちゃん、「一緒に行って」と言っていたのですが、途中から私の脚の痛みが引かないので、一人でトイレに入るようになりました。私は信ちゃんを車椅子に乗せた後、近くのベンチや車の中などで待ちます。
昨日、東京に戻っての定期健診がありました。病院でもいつもは一緒にトイレ室に入るのですが、私が形成科と皮膚科に診察してもらう間、信ちゃんは一人でトイレに行き嬉しそうに、「一人で大丈夫だった」と言いながら戻って来ました。
「以前は『使用中』の札が紐で吊るしてあって、札が裏返る事があったが、今日みたら札の裏が磁石になっていて、ドアに貼れた。便利だね」
信ちゃん車椅子で一人で、トイレに入るようになる。
そんなの当たり前でしょうと驚かれる方もいるでしょうが、これは私にとり、大変な喜びです。
甘えん坊であると同時に、私には過度に思えるほどに慎重で怖がり。その信ちゃんが一人でOKなのです。これからはもっといろいろなことを一人でして貰えるよう、うまく信ちゃんをリード(操る、とも言います)して行きたいと思います。
二つ目の贈り物。
14年ぶりに、信ちゃんと同じ視点で絵画や展示物を楽しむことが出来た。
信ちゃんは車椅子に座って見る。私は立って見る。子供と大人の視点が異なる事で、対象への印象が変わると言われます。私たちはここ14年間、異なる視点で、異なる印象を抱き、絵画や対象について語って来たのですね。
今回、それがよく分かりました。
前にも書いたように歩行はかなり出来るようになったが一つの場所に立っていられない。立っていられなければ、好きな作品の前で十分な時間をかけて鑑賞する事は無理です。また、ベンチなど、近くに休む場所のない博物館や美術館ではゆっくり見て回れません。
そこで、信ちゃんは電動車椅子。私は車に積んできたもう一つの車椅子。自走式折りたたみ車椅子を使うことにしました。
最初は、車椅子を押して歩き、気に入った作品の前で車椅子に座ろうと思っていたのですが、立ったり座ったりが面倒になり、途中で自走する事にしました。
そして気付いたのです。信ちゃんと自分が14年振りに、同じ視点から作品を見ている事を。
それは素晴らしい経験でした。
それは嬉しい経験でした。
今回の2019年北海道車椅子ドライブ旅行の前に、北海道 鹿追町 神田日勝記念美術館に行く事にしたと書きました。
記念美術館の同じ敷地内にある鹿追町の道の駅にはレストランはなく、道路を越えて食べに行かなければなりません。私の脚では厳しい距離。そこで売店で買ったパンと、宿から持って来た紅茶で、記念美術館の前の木陰のベンチでお昼にしました。
地元の人たちが両側のベンチでお弁当を広げています。
記念美術館には日勝の作品がすべて展示されてはおらず、どうしても見たい作品「室内風景」が札幌の道立美術館所蔵だと聞き、急遽札幌に寄りました。鹿追町ではそれなりにお客さんは居ましたが、札幌では、私たちがほぼ独占状態でした。写真も自由に撮っていいとの事で、二人で車椅子を並べて絵から6メートルほど離れ、絵を見続けました。
藝大に進んだ兄から油絵の手ほどきを受け、キャンバスにも作品を残していますが、私たちはこのようなベニヤ板に描かれた作品の力強さに心惹かれました。
信ちゃんは最初、たいして日勝に興味がなかったようです。ですが作品を前にして「もっと軟弱だと思っていた。来てよかった。凄い才能だね」と、特に遺作となった未完の馬が繋がれた鎖を穴が開くほどに見つめていました。「この人、2次元と3次元の視点が混合している」
そうでした、そうでした。今回の一番の目的は、厚岸で牡蠣フライと花咲蟹を食べることでした。
ということで最後に・・・
厚岸の漁業組合販売所で一杯千円で購入。新得の宿で写真を見せたところ「ここだと3倍の値段はします」と言われました。
味噌もたっぷりでした。おいしかったけれど、手が疲れました。
(2019年 北海道・厚岸の宿で)


