車椅子旅行は楽しい!

パッケージ旅行とは違う、「個人でプランを立て」「自由な発想の」「安上がりな」「車椅子旅行のススメ」
「車を運転している時は、自分が左半身不随であることを忘れられる」と言う、17年前に脳出血で倒れ車椅子生活者となった夫との車椅子旅行は、幸せの宝庫です。

信ちゃんの免許更新

 来月頭に70歳の誕生日を迎える信ちゃん(夫です)。免許更新のために、鮫洲運転免許試験場 警視庁に行って来ました。無事、3年間の免許証を受け取りました。


 さて、免許更新の前にはまず、高齢者講習

を受けなければなりません。この高齢者講習がなかなかの者でした。
(1)更新期間満了日の約190日前に「講習のお知らせ」はがきが郵送されてくるので、
(2)はがきに記載されている教習所または鮫洲運転免許試験場から希望する場所を選択し、電話をして直接予約するのですが、
(3)バス一本で自宅から行ける目黒駅から近い教習所があったので早速電話をしました。一番早くての11月11日の午後にと言われました。忘れないようにと、スケジュール表に書き込み、大きく丸をつけました。


 講習当日は丁度、親友の還暦を祝うが恵比寿駅近くのビストロであったので、講習会の後パーティの時間まで、恵比寿カーデンプレイスで久しぶりにゆっくりお茶を飲んで時間をつぶそうという事になりました。

 クリスマスの飾りを見ながら、ゆっくりお茶を飲むという贅沢な時間が過ごせたので、講習会でてた腹が、大分収まりました。


 ん? 講習会でがあったか、ですか? まあ、話を聞いて下さい。


 講習会には信ちゃんを含めて7人が参加していました。3人は70歳を過ぎている方々で、最初に同じ申し込み書類をみんなで書き込んだ後、別の部屋へと移られました。
 残されたのは4人。部屋には3種類の、目の検マシンがテーブルの上に置かれています。信ちゃん以外の3人の方が検査を順番にされる間、係りの女性が来て、
「車椅子だと大変なので(何が大変なのかは、よく分かりませんでしたが)3人の方が実技をされている間にお願いします」と言いました。
 その時の係りの女性の態度に、まず私はと来ました。
 信ちゃんがきちんと書類に一人で書き込む(私が机の上の紙が滑らないように手で押さえてはいましたが)姿を見ているのですから、信ちゃんの理解力に問題はないと分かるはずです。
 な・の・に
 女性は私を見て説明を続けます。私は「私ではなく、夫を見て話してください!」と言いました。女性は一瞬、私に何を言われたのか、理解出来ないという表情をみせました。それでもその時は信ちゃんの方を見て説明を終えたのですが、


 3人の方々が目の検査を終わり、別の場所へと移動するために立ち上がりました。信ちゃんには声がかかりません。再び女性が来て、「今しばらくお待ち下さい」と言いましたが、な・な・ん・と
 ま・た・ 
 信ちゃんではなく私に話しかけました。
 私はさっきよりも大きな声で「私に話しても仕方がないでしょ。夫に直接説明して下さい」と言ったので、部屋を出ようとしていた三人が私たちの方を振り返りました。
 「一緒に行かなくてもいいのですか」と私が聞くと
 「こちらでビデオを見ていてもらいます」と女性が答えました。


 私は戸惑い、結局、信ちゃんと私だけが部屋に取り残されました。ビデオをセッティングし忘れたのか、画面はタイトルのままで何も始まりません。


 それから10分は経過。みなさん6人全員が部屋に戻って来ました。
 信ちゃんはお昼を食べたばかりで眠いのか、うとうとしています。私は係りの女性に近づき、「いつまでこうして何もしないで待たなければならないのですか」と聞きました。
 「これからみなさんは実技に移るので、それが終ったら戻って来ますので、目の検査をしましょう」
 「えっ、夫の実技チェックはないのですか?」
 「はい。実技チェックを受けられるとは聞いていません」
 「何を言っているのですか?上の方にきちんと確かめて下さい」
 これ以上、信ちゃんに話の内容を聞かせたくない。それに信ちゃんにはウトウトしたままで居て欲しかったので、私は廊下に出て話しを続ける事にしました。女性は上司に部屋の内線電話をしています。しばらくすると、最初に受付をした中年の白シャツのおっさんがあわてて走ってやって来ました。廊下での立ち話が始まりました。
 「実技チェックはないのですか?」
 「今日の講習はテストではないので、実技チェックをされなくても、講習終了証はお渡しします私にはその後、おっさんが「まあ固いことは言わず、いいではないですか。修了証はますから」と続けたかったように聞こえました
 「あなた、無礼ですね。そのように言う事は、夫の尊厳を傷つけているのが分かっているのですか?」
 「・・・・・」
 「実技チェックは受けないと、受付の時に言いました?」
 「いいえ」
 「実技チェックは受けられますかと、あなた、夫に聞きました?」
 「いいえ、私のミスです。てっきり受けられないものだと思いました。車椅子のみなさんが実技チェックを受けることはこれまであまりないので」


 実際にはもう少し話はごたごたしたのですが、おっさんは平謝りに謝るだけで、私の言わんとする趣旨を本当に理解したのかは、はなはだ疑問でした。要は最初から、
「信ちゃんは障害者用の車でしか運転出来ない」と決めつけて
「実技チェックはしなくても、講習修了証はあげるから文句はないでしょう」本心だったと思います。
「車椅子ドライバー」だという気持ちがあったのだと思います。


 さて、すでに3人のうち最初の方はチェックを終えていたので、残りの2人が乗り込もうとしていた車に信ちゃんが駆けつけ、運転手席に座りました。後ろに私も乗り込みます。
 信ちゃんはスイスイ、運転します。私は後部座席の2人に、「片手でも運転歴はもう13年以上ですからご心配なく」と、いわずもがなの事を伝えました。
 クランクに入れる時、信ちゃん、左前車輪を左側に少し乗り上げてしまいました。


 帰り道の会話です:
 「さっきはどうしたの?」
 「いつもより座席がかったので、がよく見えなかった」
 「座席を上げて貰えば良かったのに」
 「めんどうだったし、係りの女性が君のように僕が左がよく見えるようにと、座席を後にずらしてくれていなかったから」
 改めて、私は自分がドライバー信ちゃんのよいパートナーなのだと「ふ、」と思いました。


 そうでした。この日の締めくくりの出来事もお話しなければ。


 帰りは日比谷線の恵比寿駅から中目黒で乗り換え、東横線で帰宅しました。
 8時が過ぎていたので、六本木方面からの車椅子スペースのある車両は劇混み。一瞬「やばい」と思いましたが、恵比寿で大勢の人が降りたので、入り口を右折して、車椅子スペースにはスーズに・・・と思ったら、信ちゃんがしっかりいつも摑まるバーの上に、スマホに夢中の30代少し過ぎたと思われる男性が軽く腰をかけていました。
 私はいつものように、声をかけます。「すいません。空けていただけますか」
 男性は少し顔を上げ、信ちゃんの後ろのバーのスペースにまた腰をかけ、ぶつぶつつぶやいています。私の「何ですか?」という問いかけに男性は、ぶつぶつを止めません。ですが、酔っ払っているらしい男性をそれ以上相手にしてもつまらないと、信ちゃんと話を始めました。
今日のパーティ、楽しかったね


 終点の中目黒の駅に着き、ドアが開きました。さっきの男性の「何で俺がどかなければならないのだ・・・」などのぶつぶつがまだ続いていました。信ちゃんと夜外出する事がほとんどないので、私も多少、いつもより気分が高揚していたのかもしれません。男性のぶつぶつをスルーする事も出来たのですが、「まだ何か」と声をかけました。
 と、その時です。
 車椅子スペースの前の席に座っていた同年齢と思われる男性が立ち上がり言ったのです。
 「おいお前、2人にれ!」
 信ちゃんも私もびっくり。スロープを出してくれていた駅員さんもびっくり。
 ホームに降りた男性二人の、口論が始まりました。
 その時、私たちが乗る東横線が到着しました。乗客が降りるのを待つ私のところに最初の男性が走り寄り、私の耳元で「悪気はなかったんだ」と囁きました。それから、また二人目の男性のところに戻り、口論を続けました。
 駅員さんがスロープをセットし、信ちゃんが乗車します。私は2人が気になりながらも信ちゃんの後に続きました。


 寝る前、信ちゃんが言いました。「あの、どうなったかなあ。喧嘩の後に意気投合して、酒でも一緒に飲んだりしていたら嬉しいな」。
 翌朝、信ちゃんは前日の高齢者講習と、親友のパーティの話題に花を咲かせた後、言いました。
 僕、あの人が『2人にれ!』と言った時、本当に嬉しかった


 来年はオリンピック期間中、一ヶ所にのんびり三日づつ滞在して道東を周ろうと考えています。すでに宿は予約しました。また、この大好きな、私たちが一番美味しい蟹だと思う、花咲蟹を食べるために。同じ写真で、ごめんなさい。おいしそうですよね。いやあ、本当においしいです。
 以前も書きましたが、この花咲蟹の値段ですが、足が折れたりしているB級品なので、漁業組合の販売所で一杯1,000円でした。
 札幌マラソンの影響で、フェリーや道路などが混雑しない事を祈るのみです。

(2019年 8月 北海道・厚岸)

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