車椅子旅行の贈り物: のぶこちゃんのソウル旅行
「車椅子旅行の贈り物 - 車椅子旅行は楽しい!」で登場していただいた井崎哲也さんのビデオのキャプションに、「人との出逢いが、井崎哲也の生き様に影響を与えた」・・・とありますが、その後に・・
「車椅子だからこそ・・・そしておおきく言えば、障害を持っているからこその(人との出逢い)」と、私は付け加えさせて貰います。それが実感ですから。その積み重ねですから、車椅子旅行というのは。
と書きました。
では、ど・う・し・て・このような言葉を付け加えたのかと言えば・・・
それは、聾者ののぶこちゃんのソ・ウ・ル・旅行・体験を聞いていたからです。
信ちゃん(夫)が脳出血で倒れる前、義姉と何度かソウル旅行に行きました。ペ・ヨンジュンさんフィーバーの吹き荒れた頃の事です。美味しい食事にエステ(というほどのものではありませんでしたが)の他、家族の下着や寝間着をどっと買い込みに。
文学・歴史が好きな義姉との旅は、自分一人では絶対に訪れないであろう場所の訪問・散策も多く、自分は通常の観光旅行よりも有意義な旅行を楽しんでいる・・・のだと勝手に思っていました。
アメリカ手話ASL(http://www.npojass.org/)のクラスである日、のぶこちゃんが嬉しそうに言いました。
「ソ・ウ・ル・に行くの。初めてなんだ」
自分が、どう答えたかは覚えていませんが、(偉そうに)ソウル旅行の先輩として何か御託を並べたかも。
(naviシリーズは海外旅行でいつも大いに利用しています)
帰国したのぶこちゃんのソウル体験談を聞いた私は、正直、心から羨ましく思いました。どんなに観光地を色々巡って見ても、このような体験は私たちには絶対出来ません。
のぶこちゃんの話はこうでした。
「聾の友人と二人で南大門市場をウィンドウ・ショッピングしていたら、話しかけられて。彼らはソウルに住む聾の大学生三人(男性二人、女性一人)。色々見どころを教えて貰い、案内も少ししてくれてから、『これから授業があるからゆっくり出来ないけれど、夜軽く飲みに行くので一緒にどう?』と誘われたの。
夕方東大門駅で待ち合わせて、結局朝の4時近くまで食べて・飲んで・ずっと話をしてね。すごーく楽しかったわ!」
日韓間にはまだまだ問題が山積みですが、日本が朝鮮半島に残したものの一つが「手話教育」で、のぶこちゃんは「韓国手話の大半が理解出来た」そうです。
「でも結局、彼らもASLが出来たので、もっぱらASLで話しちゃった」
んー・・・手話の世界も共通語は英語(というか米語)なのか・・・。
普通、韓国語が出来ないと十分なコミュニケーションが旅先では期待出来ない。でものぶこちゃんたちは「手話」という目に見えるコミュニケーション手段を手にしていたので、旅先であっと言う間に友達を作って帰国しました。
車椅子も、目に見えるコミュニケーション手段だと思います。
何故?
普通ならきっと声を掛けて下さることもない状況でも、信ちゃん(夫)が車椅子ゆえに、会話が始まる事があるのです。
山形駅の売店での事。車椅子を押す私をみて信ちゃんに中年の男性が声をかけました。
「お嬢さんに押して貰って、幸せですね」
そのまま黙っていればよかったのかも知れませんが私は、つ・い・
「妻です」
「ああ、どうも・・・す・すみません」
自分で会話をカットしてしまいました。あ・ほ・でした。
信ちゃんが大好きなビートルズの街。カーディフからリバプールへの列車に乗り込むところです。
日本のローカル線とほぼ同じ要領でした。
(2010年8月)
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