信ちゃん、車椅子生活者体験を語る。
前回紹介した、信ちゃん(夫)のプチ講演会が先週、無事終了しました。
日頃は、「最善を尽くせばそれでいい。結果は気にしない」という信ちゃんですが、今回は珍しく、「みんなに少しは僕の気持ち、伝わったかな?」と私に聞きました。それも一度ではなく、何度も何度も。確かめるように。
そもそも、人前で話すのは今回が初めてではありません。専門分野の舞台音響技術については、専門学校やセミナーで何度か講義をしたことがあります。仲人も数回経験しています。なのに・・・
車椅子から普通の椅子に移動してみなさんを前に話が始まると、信ちゃんの麻痺していない右膝が、軽く揺れ始めました。車椅子生活者として話をするのは初体験だったので、かなり緊張していたのだと思います。
それでも話は途切れることなく、ときどき声が上ずりましたが順調に最後まで、予定時間通りに終わりました。
講演料として「費用弁償」という謝礼を頂きました。初めて聞く言葉だったので、思わず検索してしまいました。
媚薬といえるかはともかく、二人でリ・ッ・チなランチを食べるには十分な金額でした。得意の事前ブラウジングで会場近くに発見していたスペイン・バルに、車を会場に置かせてもらったまま行き、おいしくのんびりとパエリアを味わいました。
講演会からしばらく経ち、お願いしていた「講演の録音データ」が、区の社会福祉協議会から送られてきました。
担当者からの連絡票と書かれた手紙には、こう書かれていました。
「実体験に基づく活きたお話をたくさん伺うことができ、目からウロコの心境でした。ユーモアもたっぷりで、参加者の皆様にもとてもご満足いただけたと感じております」
その夜、寝る直前になって信ちゃんが言いました。
「『目からウロコの心境』って書いてあったよね」
「うん」
「よ・か・っ・た」
信ちゃんは幸せに安らかに寝入りました。
講演会で一番緊張が走ったのは、信ちゃんがケア・マネージャーのエピソードを披露して、「みなさんならどうしますか?」と尋ねた時です。
自動販売機の前でうまく欲しい飲み物が買えない車椅子の老齢者に、「お手伝いしましょうか」と聞いたら、「さっさと手伝え」と言われて、ケア・マネージャーは「ひどいですよね」と私たちに訴えました。
みなさんからの答えはさまざまでした。正解はないと思います。ですが、信ちゃんはロンドンで体験した幸せをみなさんとシェアすることで、自分が伝えたい事をきちんと、みなさんに伝えたと私は思っています。そしてもうこの先、
「みんなに少しは僕の気持ち、伝わったかな?」と私に聞くことはないと思います。
また、「費用弁償」を頂けるチャンスがあるといいね、信ちゃん。おいしいランチが心置きなく食べられるもの。
早く暖かくな~れ。来週は、福島に行きます。今年初めての遠出の車椅子旅行になります。
(2009年 サンディエゴ)
