「ぼく、上を向いて寝ている!」
普段の信ちゃん(夫)は毎朝7時を過ぎて、のこのこと起き出してきます。
もともと匂いには敏感でしたが、ありがたいことに臭覚にはほとんど障害が出ませんでした。私が7時を合図にばたばたと朝食の支度を始める音と共に、朝ご飯の匂いが、いつも目覚めを促すようです。
左・半・身・不・随・の信ちゃんは、朝起こしに部屋に行くと、11年間変わらず、体の右側を下に、横向きで寝ています。夜中にトイレに起きた時に見ると、上を向いて寝ていることもありますが、朝になると必ず、右手が下の右横向きになっています。
「楽だから」
「上を向いて寝ていることもあるんだよ」
「でも、横向きの方が楽だから」
ところがここ数日起こしに行くと、まっすぐ上を向いて左手は左側に、右手は右側に置いて、私が編んだ耳付き帽子を被ってすやすやと寝ています。
信ちゃんは世にいう「ハゲ」なので、冬は帽子を被らないと寒くて寝られない。私が就寝用に編んだ帽子は耳付き2つも含めて、7つ。毛糸帽子長者です。
11月末、信ちゃんは「左側を下にして寝てみますか?」と、映画『トップ・ガン』
が大好きだと言う理学療法士君に聞かれました。
「大丈夫かな?」不安そうな信ちゃん。
「やってみましょう」と元気なトップ・ガン君。
左肩を下に上体を垂直に立て、手伝ってもらいながらなんとか左脚の上に右脚を乗せます。最初は何度も何度も、右に体が開きましたが最後にはなんとか体勢を整え、左側を下に横向きに寝る事が出来ました。
トップ・ガン君がリクエスト「右手を大きく後ろから回して下さい」
しっかり背中を抑えて貰ってるのですが、信ちゃんは必死の形相。
「無理だよ!」
「腹筋が苦しい!」
「足が吊る!」
「ああ、倒れる、倒れる!」
大騒ぎの末、なんとか右手を回すことが出来ました。
肉体の訓練というのは、スポーツの練習のように、反復により大きな成果が上がるのですね。
その日から毎日、一日わずか一回ですが、左手を下に横向きに寝て右手を回す練習をするうちに、後ろで私が必死で背中を支えなくても、半月後には、上体が右側に倒れないようになりました。
2016年も車椅子旅行で、さまざまな場所に出かけ、さまざまな方々に会い、さまざまなことを学び、さまざまなものを食べて舌鼓を打ち、さまざまな思いが心を駆け巡りました。さまざまな思い出が積み重なりました。
車椅子旅行で出かけたどの場所も、どの出会いも、どの知識も、どの味も、どの感情の揺れも、私たちの心を豊かにしてくれました。
そこから私たちは、また来年も車椅子旅行を続けられるエネルギーを貰いました。
いずれもとても大切で大事な体験ですが、今年、私たちが一番うれしかった事は何かと話し合い、意見がすんなり一致しました。
それは・・・信ちゃんが朝、上を向いて寝ているようになった、ということです。
私は、信ちゃんの左側に寝ています。これまでは信ちゃんの背中を見ながら「おやすみ」と眠りにつき、目覚めると右手に見えるのは信ちゃんの背中でした。
でも、ここ数日は違います。
信ちゃんの横顔を見ながら就寝し、信ちゃんの横顔を見ながら起床します。
バ・ン・ザ・イ! 信ちゃんは左右のバランスよく、上を向いて寝られるようになったのです。
「2017年の最初の車椅子旅行はどこにする?」
思いがけない答えが返って来ました。
「大衆演劇をまた見に行こう!」
3年前、関東の梅の名所「越生(おごせ)梅林」
を見たくてネット・ブラウジングをし、偶然、ニューサンピアおごせという宿を見つけました。立派なバリアフリー・ルームが3階にあります。エレベーターはないのですが、なが~いスロープがあり、信ちゃんはそれがとても気に入りました。
その宿に、「おごせ劇場」:大衆演劇 おごせ劇場|ニューサンピア埼玉おごせ:があり、私たちは生まれて初めて大衆演劇を楽しみました。
「面白かったよね。大衆演劇を見たあとのんびり、おごせの時のようにホテルに泊まりたい!」
あの時は2食付、観劇も含めて一人9,000円以内でした。今回も、そんな宿はあるのかな?
ありました。ありました。
宿に電話を入れると、「入り口に数段階段がありますが、お手伝いします。館内はバリアフリーです」とのこと。
よっしゃ。2017年は大衆演劇で車椅子旅行を幕開けするぞ。
ミレーの名画「落ち穂拾い」のある山梨県立美術館:山梨県立美術館 | YAMANASHI PREFECTURAL MUSEUM of ART:と組み合わせて、2泊3日の旅。決まり。
年が明けたら、楽しい、楽しいプランを立てましょう。安いホテル探し。大好きです。
みなさま、どうぞ良いお年をお迎えください。
サハラ砂漠の夜明けです。
(2004年1月)チュニジアにて
