車椅子旅行の理想の宿とは:2016年北海道編(3)
今日お話ししたい、今年の旅で出会えたもう一つの理想の宿は、北海道の松前町にありました。遠くに青森県の竜飛岬が見える北海道の南端の街です。
いつも引用する口コミサイトでの評価は高く
私たちが宿泊した時にも、ちょっとした宴会が開かれていたように、食事処としても人気です。自家製の松前漬けも有名です。
左半身不随の信ちゃん(夫)の左腕は、かなり挙げられるようになりましたが、手首は残念ながら、今も硬直したまま。足はありがたい事に、足首が固定された膝下までのギブスのような装具を付ければ、杖を突いて多少歩けます。右に掴まるところがあれば、階段も数段。
ですが畳の上で座布団に座ったり、布団で就寝するのは、至難の業です。
ベッドは必須です。
今回の松前・積丹半島の旅の宿の多くは昔ながらの日本家屋。ネットで調べる限り、よこはま荘にも洋室はありませんでした。ですが、以前に書いたウトロの宿の経験から
諦めずに、よこはま荘に電話を掛けました。
「折り畳みベッドがあったら、使わせていただけないでしょうか」
「家族が使っていたものが1つあります。それでよかったら」
「もちろんです。私は布団で」
「客室はすべて二階です。一階には宴会用の座敷しかありません。大きな部屋になりますが」
「構いません。よろしくお願いします」
宿に到着。玄関のすのこの上のスリッパをすべて片付け・・・信ちゃんが右の壁に寄りかかりながら廊下まで上がれるように、快く宿の方は協力して下さいました。
「廊下だけは、車椅子で移動しても良いですか?」
「どうぞ、どうぞ」
たとえ3メートルほどのわずかな距離でも、初めての場所は緊張して信ちゃんの足は動かなくなるのです。
「廊下は車椅子が使えるけれど、部屋は畳だから装具と杖で、自分で歩くのよ」
「分かってる」
そして・・・宴会場の大部屋のふすまを開けると・・・
そこには、思いがけない光景がありました。
折り畳みのベッドが二つ並んでいたのです。
布団に寝る心づもりでしたが、ベッドを二つ見ても私は何も言いませんでした。正直ほっとしました。ベッドの方が楽ですから。
宿の方も、電話で「ベッドは1つ」とおっしゃったことなどまったく忘れたように、ベッドを二つ用意して下さった事に、滞在中、一言も触れませんでした。
夜遅く、一人でトイレに立った時、階段の下に真新しい折り畳みベッドが入っていたであろう段ボールの箱が一つ、畳んでありました。
私たちのために新しく折り畳みベッドを購入して下さったのか・・・本当の所は分かりません。そのような事はとにかく・・・
この場を借りて、「よこはま荘」のみなさんに心から言わせて下さい。さりげない皆さんの優しさ、本当にありがとうございました。車椅子旅行者でよかったです。
夕食にはとろーり甘い「生うに」など盛りだくさんの料理が並びました。おいしそうなお料理を見たとたんかぶりつき、写真を撮るのをコロッと忘れました。
写真は朝食です。新鮮なイカと納豆。それに松前漬け。みんな混ぜてクルクル。暖かいご飯の上に。最高でした。
よこはま荘のような宿では、信ちゃんのトイレの度に私は一緒に起き、車椅子を押します。
食事の時には
1) 膝にお盆を置いて食べる
2) 脇にスツールを置いて、その上にお盆を乗せて食べる。
3) 低い椅子に座って食べる(この場合高さが微妙で、低すぎると座ることも立ち上がることも出来ません)
などなど、さまざまな対応が必要で、正直・・・
手間がかかり・疲れ・めんどくさーいと思うこともあります。
ですが、よこはま荘では、宿の方たちとの朝の挨拶一つにしても、大きなバリアフリーホテルよりも、心がこもったものだと素直に感じられ、素晴らしい旅の醍醐味を味あわせて頂けました。
いつか、重くて車椅子を車のトランクに乗せられなくなる日がくるでしょう。
いつか、体がきつくて、旅の醍醐味を味わうよりも楽な旅をしたくなる日がくるでしょう。
その日が来るまで・・・信ちゃん、楽しくやろうね。理想の宿を求めて!